のは郊外だ――そこで自分の計画には角筈か千駄木あたりへ引越して来る、とにかく家を移す、先ず住むことを考えて、それから事業《しごと》の方に取掛る、こう話した。
「それじゃあ、家の方は大凡《おおよそ》見当がついたというものだね」と相川は尋ねた。
「そうサ」
「ははははは。原君と僕とは大分違うなあ。僕なら先ず事業を探すよ――家の方なんざあどうでも可《い》い」
「しかし、出て来て見たら、何かまた事業があるだろうと思うんだ」
「容易に無いね――先ず一年位は遊ぶ覚悟でなけりゃあ」
家を中心にして一生の計画《はかりごと》を立てようという人と、先ず屋《うち》の外に出てそれから何事《なに》か為《し》ようという人と、この二人の友達はやがて公園内の茶店《さてん》へ入った。涼しい風の来そうなところを択《えら》んで、腰を掛けて、相川は洋服の落袋《かくし》から巻煙草を取り出す。原は黒絽《くろろ》の羽織のまま腕まくりして、※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]子《ハンケチ》で手の汗を拭いた。
黄に盛り上げた「アイスクリイム」、夏の果物、菓子等がそこへ持運ばれた。相川は巻煙草を燻《ふか》しながら、
「時に、原君
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