とこ》との間に、箕《み》を高く頭の上に載せ、少許《すこし》づつ籾を振ひ落して居る女、彼《あれ》は音作の『おかた』(女房)であると話した。丁度其女房が箕を振る度に、空殻《しひな》の塵《ほこり》が舞揚つて、人々は黄色い烟を浴びるやうに見えた。省吾はまた、母の傍《わき》に居る小娘を指差して、彼が異母《はらちがひ》の妹のお作であると話した。
『君の兄弟は幾人《いくたり》あるのかね。』と丑松は省吾の顔を熟視《まも》り乍ら尋ねた。
『七人。』といふ省吾の返事。
『随分多勢だねえ、七人とは。君に、姉さんに、尋常科の進さんに、あの妹に――それから?』
『まだ下に妹が一人と弟が一人。一番|年長《うへ》の兄さんは兵隊に行つて死にやした。』
『むゝ左様《さう》ですか。』
『其中で、死んだ兄さんと、蓮華寺へ貰はれて行きやした姉さんと、私《わし》と――これだけ母さんが違ひやす。』
『そんなら、君やお志保さんの真実《ほんたう》の母さんは?』
『最早《もう》居やせん。』
斯ういふ話をして居ると、不図《ふと》継母《まゝはゝ》の呼声を聞きつけて、ぷいと省吾は駈出して行つて了つた。
(二)
『省吾や。
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