其を思ふと、私はもう働く気も何も無くなつて了《しま》ふ。加之《おまけ》に、子供は多勢で、与太《よた》(頑愚)なものばかり揃つて居て――』
『まあ、左様《さう》仰《おつしや》らないで、私《わし》に任せなされ――悪いやうには為《し》ねえからせえて。』と音作は真心籠めて言慰《いひなぐさ》めた。
 細君は襦袢《じゆばん》の袖口で※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶち》を押拭ひ乍ら、勝手元の方へ行つて食物《くひもの》の準備《したく》を始める。音作の弟は酒を買つて帰つて来る。大丼が出たり、小皿が出たりするところを見ると、何が無くとも有合《ありあはせ》のもので一杯出して、地主に飲んで貰ふといふ積りらしい。思へば小作人の心根《こゝろね》も可傷《あはれ》なものである。万事は音作のはからひ、酒の肴《さかな》には蒟蒻《こんにやく》と油揚《あぶらげ》の煮付、それに漬物を添へて出す位なもの。軈《やが》て音作は盃《さかづき》を薦《すゝ》めて、
『冷《れい》ですよ、燗《かん》ではごはせんよ――地親《ぢやうや》さんは是方《こつち》でいらつしやるから。』
 と言はれて、始めて地主は微笑《ほゝゑみ》を泄《もら
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