様《さう》だ。奈何して斯様《こん》なところへ帰つて来られよう。丑松は想像して慄《ふる》へたのである。
『まあ、御茶一つお上り。』と音作に言はれて、地主は寒さうに炉辺へ急いだ。音作も腰に着けた煙草入を取出して、立つて一服やり乍ら、
『六俵の二斗五升取ですか。』
『二斗五升ツてことが有るもんか。』と地主は嘲《あざけ》つたやうに、『四斗五升よ。』
『四斗……』
『四斗五升ぢや無いや、四斗七升だ――左様だ。』
『四斗七升?』
斯ういふ二人の問答を、細君は黙つて聞いて居たが、もう/\堪《こら》へきれないと言つたやうな風に、横合から話を引取つて、
『音さん。四斗七升の何のと言はないで、何卒《どうか》悉皆《すつかり》地親《ぢやうや》さんの方へ上げて了つて御呉《おくん》なんしよや――私《わし》はもう些少《すこし》も要《い》りやせん。』
『其様《そん》な、奥様《おくさん》のやうな。』と音作は呆《あき》れて細君の顔を眺める。
『あゝ。』と細君は嘆息した。『何程《いくら》私ばかり焦心《あせ》つて見たところで、肝心《かんじん》の家《うち》の夫《ひと》が何《なんに》も為ずに飲んだでは、やりきれる筈がごはせん。
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