、其実怒つて居るのでも何でも無い。丑松は其を承知して居るから、格別気にも留めないで、年貢の準備《したく》に多忙《いそが》しい人々の光景《ありさま》を眺め入つて居た。いつぞや郊外で細君や音作夫婦が秋の収穫《とりいれ》に従事したことは、まだ丑松の眼にあり/\残つて居る。斯《こ》の庭に盛上げた籾の小山は、実に一年《ひとゝせ》の労働の報酬《むくい》なので、今その大部分を割いて高い地代を払はうとするのであつた。
 十六七ばかりの娘が入つて来て、筵の上に一升|桝《ます》を投げて置いて、軈《やが》てまた駈出して行つた。細君は庭の片隅に立つて、腰のところへ左の手をあてがひ乍ら、さも/\つまらないと言つたやうな風に眺めた。泣いて屋外《そと》から入つて来たのは、斯の細君の三番目の児、お末と言つて、五歳《いつゝ》に成る。何か音作に言ひなだめられて、お末は尚々《なほ/\》身を慄《ふる》はせて泣いた。頭から肩、肩から胴まで、泣きじやくりする度に震へ動いて、言ふことも能くは聞取れない。
『今に母さんが好い物を呉れるから泣くなよ。』
 と細君は声を掛けた。お末は啜《すゝ》り上げ乍ら、母親の側へ寄つて、
『手が冷《つ
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