ことが有るんでね。』とすこし言淀んで、『実は――此頃《こなひだ》久し振で娘に逢ひました。』
『お志保さんに?』丑松の胸は何となく踊るのであつた。
『といふのは、君、あの娘《こ》の方から逢つて呉れろといふ言伝《ことづけ》があつて――尤《もつと》も、我輩もね、君の知つてる通り蓮華寺とは彼様《あゝ》いふ訳だし、それに家内は家内だし、するからして、成るべく彼の娘には逢はないやうにして居る。ところが何か相談したいことが有ると言ふもんだから、まあ、その、久し振で逢つて見た。どうも若いものがずん/\大きく成るのには驚いて了ふねえ。まるで見違へる位。それで君、何の相談かと思ふと、最早々々《もう/\》奈何《どう》しても蓮華寺には居られない、一日も早く家《うち》へ帰るやうにして呉れ、頼む、と言ふ。事情を聞いて見ると無理もない。其時我輩も始めて彼の住職の性質を知つたやうな訳サ。』
 と言つて、敬之進は一寸徳利を振つて見た。生憎《あいにく》酒は盃《さかづき》に満たなかつた。やがて一口飲んで、両手で口の端《はた》を撫《な》で廻して、
『斯《か》うです。まあ、君、聞いて呉れ給へ。よく世間には立派な人物だと言はれて
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