其を受取つて、一息にぐいと飲乾《のみほ》して了つた。
『烈しいねえ。』と敬之進は呆《あき》れて、『君は今日は奈何《どう》かしやしないか。左様《さう》君のやうに飲んでも可《いゝ》のか。まあ、好加減にした方が好からう。我輩が飲むのは不思議でも何でも無いが、君が飲むのは何だか心配で仕様が無い。』
『何故《なぜ》?』
『何故ツて、君、左様ぢやないか。君と我輩とは違ふぢや無いか。』
『はゝゝゝゝ。』
と丑松は絶望した人のやうに笑つた。
(七)
何か敬之進は言ひたいことが有つて、其を言ひ得ないで、深い溜息を吐くといふ様子。其時はもう百姓も、橇曳《そりひき》も出て行つて了つた。余念も無く流許《ながしもと》で鍋《なべ》を鳴らして居る主婦《かみさん》、裏口の木戸のところに佇立《たゝず》んで居る子供、この人達より外に二人の談話《はなし》を妨《さまた》げるものは無かつた。高い天井の下に在るものは、何もかも暗く煤《すゝ》けた色を帯びて、昔の街道の名残《なごり》を顕《あらは》して居る。あちらの柱に草鞋《わらぢ》、こちらの柱に干瓢《かんぺう》、壁によせて黄な南瓜《かぼちや》いくつか並べてある
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