を出した方が可《いゝ》。左様《さう》すれば、口は減るし、喧嘩《けんくわ》の種は無くなるし、あるひは家庭《うち》が一層《もつと》面白くやつて行かれるかも知れない。いや――どうかすると、我輩は彼《あ》の省吾を連れて、二人で家《うち》を出て了はうか知らん、といふやうな気にも成るのさ。あゝ。我輩の家庭《うち》なぞは離散するより外《ほか》に最早《もう》方法が無くなつて了つた。』
 次第に敬之進は愚痴な本性を顕した。酒気が身体へ廻つたと見えて、頬も、耳も、手までも紅《あか》く成つた。丑松は又、一向顔色が変らない。飲めば飲む程、反《かへ》つて頬は蒼白《あをじろ》く成る。
『しかし、風間さん、左様《さう》貴方のやうに失望したものでも無いでせう。』と丑松は言ひ慰めて、『及ばず乍ら私も力に成つて上げる気で居るんです。まあ、其盃を乾したら奈何《どう》ですか――一つ頂きませう。』
『え?』と敬之進はちら/\した眼付で、不思議さうに対手《あひて》の顔を眺めた。『これは驚いた。盃を呉れろと仰るんですか。へえ、君は斯の方もなか/\いけるんだね。我輩は又、飲めない人かとばかり思つて居た。』
 と言つて盃をさす。丑松は
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