を円《まる》くして、『こりやあ驚いた。君から盃を貰はうとは思はなかつた――道理で今日は釣れない訳だよ。』と思はず流れ落ちる涎《よだれ》を拭つたのである。
間も無く酒瓶《てうし》の熱いのが来た。敬之進は寒さと酒慾とで身を震はせ乍ら、さも/\甘《うま》さうに地酒の香を嗅いで見て、
『しばらく君には逢《あ》はなかつたやうな気がするねえ。我輩も君、学校を休《や》めてから別に是《これ》といふ用が無いもんだから、斯様《こん》な釣なぞを始めて――しかも、拠《よんどころ》なしに。』
『何ですか、斯の雪の中で釣れるんですか。』と丑松は箸を休《や》めて対手の顔を眺めた。
『素人《しろうと》は其だから困る。尤も我輩だつて素人だがね。はゝゝゝゝ。まあ商売人に言はせると、冬はまた冬で、人の知らないところに面白味がある。ナニ、君、風さへ無けりや、左様《さう》思つた程でも無いよ。』と言つて、敬之進は一口飲んで、『然し、瀬川君、考へて見て呉れ給へ。何が辛いと言つたつて、用が無くて生きて居るほど世の中に辛いことは無いね。家内やなんかが※[#「足へん+昔」、第4水準2−89−36]々《せつせ》と働いて居る側で、自分ばか
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