に立つたりして、多忙《いそが》しさうに尻端折《しりはしをり》で働いて居た。
『主婦《かみ》さん、何か有ますか。』
 斯《か》う丑松は声を掛けた。主婦は煤《すゝ》けた柱の傍に立つて、手を拭《ふ》き乍《なが》ら、
『生憎《あいにく》今日《こんち》は何《なんに》も無くて御気の毒だいなあ。川魚の煮《た》いたのに、豆腐の汁《つゆ》ならごはす。』
『そんなら両方貰ひませう。それで一杯飲まして下さい。』
 其時、一人の行商が腰掛けて居た樽《たる》を離れて、浅黄の手拭で頭を包み乍ら、丑松の方を振返つて見た。雪靴の儘《まゝ》で柱に倚凭《よりかゝ》つて居た百姓も、一寸盗むやうに丑松を見た。主婦《かみさん》が傾《かし》げた大徳利の口を玻璃杯《コップ》に受けて、茶色に気《いき》の立つ酒をなみ/\と注いで貰ひ、立つて飲み乍ら、上目で丑松を眺める橇曳《そりひき》らしい下等な労働者もあつた。斯ういふ風に、人々の視線が集まつたのは、兎《と》に角《かく》毛色の異《かは》つた客が入つて来た為、放肆《ほしいまゝ》な雑談を妨《さまた》げられたからで。尤《もつと》も斯《こ》の物見高い沈黙は僅かの間であつた。やがて復《ま》た盛ん
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