愛嬌《ごあいけう》――』と言つて、亭主は考へて、『こりや御持帰りに成りやした方が御為かも知れやせん。』
『折角《せつかく》持つて来たものです――まあ、左様言はずに、引取れるものなら引取つて下さい。』
『あまり些少《いさゝか》ですが、好うごはすか。そんなら、別々に申上げやせうか。それとも籠《こ》めて申上げやせうか。』
『籠めて言つて見て下さい。』
『奈何《いかゞ》でせう、精一杯なところを申上げて、五十五銭。へゝゝゝゝ。それで宜《よろ》しかつたら御引取り申して置きやす。』
『五十五銭?』
 と丑松は寂しさうに笑つた。
 もとより何程《いくら》でも好いから引取つて貰ふ気。直に話は纏《まとま》つた。あゝ書物ばかりは売るもので無いと、予《かね》て丑松も思はないでは無いが、然しこゝへ持つて来たのは特別の事情がある。やがて自分の宿処と姓名とを先方《さき》の帳面へ認《したゝ》めてやつて、五十五銭を受取つた。念の為、蓮太郎の著したものだけを開けて見て、消して持つて来た瀬川といふ認印《みとめ》のところを確めた。中に一冊、忘れて消して無いのがあつた。『あ――ちよつと、筆を貸して呉れませんか。』斯う言つて、借
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