に呻吟《うな》つてるかと思ふと、また虚言《うそ》を言つたやうに愈《なほ》るから不思議さ――そりやあ、もう、毎時《いつも》御極りだ。それはさうと、斯うして一緒に馬鹿を言ふのも僅かに成つて来た。其内に御別れだ。』
『左様かねえ、君はもう行つて了ふかねえ。』
 斯ういふ言葉を取交して、二人は互に感慨に堪へないといふ様子であつた。其時迄、黙つて二人の談話《はなし》を聞いて、巻煙草ばかり燻《ふか》して居た準教員は、唐突《だしぬけ》に斯様《こん》なことを言出した。
『今日僕は妙なことを聞いて来た。学校の職員の中に一人新平民が隠れて居るなんて、其様《そん》なことを町の方で噂《うはさ》するものが有るさうだ。』

       (三)

『誰が其様なことを言出したんだらう。』と銀之助は準教員の方へ向いて言つた。
『誰が言出したか、其は僕も知らないがね。』と準教員はすこし困却《こま》つたやうな調子で、『要するに、人の噂に過ぎないんだらうと思ふんだ。』
『噂にもよりけりさ。其様なことを言はれちやあ、大に吾儕《われ/\》が迷惑するねえ。克《よ》く町の人は種々《いろ/\》なことを言触らす。やれ、女の教員が奈何《
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