来て見ると、掻集めた木葉《このは》を背負ひ乍らとぼ/\と谷間《たにあひ》を帰つて来る人がある。散切頭《ざんぎりあたま》に、髯《ひげ》茫々《ばう/\》。それと見た白隠は切込んで行つた。『そもさん。』斯《か》ういふ熱心は、漸《やうや》く三回目に、恵端の為に認められたといふ。それから朝夕師として侍《かしづ》いて居たが、さて終《しまひ》には、白隠も問答に究して了《しま》つた。究するといふよりは、絶望して了つた。あゝ、彼様《あん》な問を出すのは狂人《きちがひ》だ、と斯う師匠のことを考へるやうに成つて、苦しさのあまりに其処を飛出したのである。思案に暮れ乍ら、白隠は飯山の町はづれを辿つた。丁度|収穫《とりいれ》の頃で、堆高《うづだか》く積上げた穀物の傍に仆《たふ》れて居ると、農夫の打つ槌《つち》は誤つて斯《こ》の求道者を絶息させた。夜露が口に入る、目が覚める、蘇生《いきかへ》ると同時に、白隠は悟つた。一説に、彼は町はづれで油売に衝当《つきあた》つて、其油に滑つて、悟つたともいふ。静観庵《じやうくわんあん》として今日迄残つて居るのは、この白隠の大悟した場処を記念する為に建てられたものである。
斯の伝
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