研究して見る価値《ねうち》は有るに相違ない。まあ、君だつても、其で「懴悔録」なぞを読む気に成つたんだらう。』と文平は嘲《あざけ》るやうな語気で言つた。
丑松は笑つて答へなかつた。流石《さすが》にお志保の居る側で、穢多といふ言葉が繰返された時は、丑松はもう顔色を変へて、自分で自分を制へることが出来なかつたのである。怒気《いかり》と畏怖《おそれ》とはかはる/″\丑松の口唇《くちびる》に浮んだ。文平は又、鋭い目付をして、其微細な表情までも見泄《みも》らすまいとする。『御気の毒だが――左様《さう》君のやうに隠したつても無駄だよ』と斯う文平の目が言ふやうにも見えた。
『瀬川君、何か君のところには彼の先生のものが有るだらう。何でも好いから僕に一冊貸して呉れ給へな。』
『無いよ――何にも僕のところには無いよ。』
『無い? 無いツてことがあるものか。君の許《ところ》に無いツてことがあるものか。なにも左様《さう》隠さないで、一冊位貸して呉れたつて好ささうなものぢやないか。』
『いや、僕は隠しやしない。無いから無いと言ふんさ。』
遽然《にはかに》、蓮華寺の住職が説教の座へ上つたので、二人はそれぎり口を
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