した。
『長野新聞?』と丑松は考深い目付をして、『今日は未だ読んで見ません。』
『そいつは不思議だ――君が読まないといふのは不思議だ。』
『何故《なぜ》?』
『だつて、君のやうに猪子先生を崇拝して居ながら、あの演説の筆記を読まないといふのは不思議だからサ。まあ、是非読んで見たまへ。それに、あの新聞の評が面白い。猪子先生のことを、「新平民中の獅子」だなんて――巧いことを言ふ記者が居るぢやあないか。』
斯う口では言ふものゝ、文平の腹の中では何を考へて居るか、と丑松は深く先方《さき》の様子を疑つた。お志保はまた熱心に耳を傾けて、二人の顔を見比べて居たのである。
『猪子先生の議論は兎《と》に角《かく》、あの意気には感服するよ。』と文平は言葉を継いで、『あの演説の筆記を見たら、猪子先生の書いたものを読んで見たくなつた。まあ君は審《くは》しいと思ふから、其で聞くんだが、あの先生の著述では何が一番傑作と言はれるのかね。』
『どうも僕には解らないねえ。』斯う丑松は答へた。
『いや、戯語《じようだん》ぢや無いよ――実際、君、僕は穢多といふものに興味を持つて来た。あの先生のやうな人物が出るんだから、確に
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