来た。青白い黄昏時《たそがれどき》の光は薄明く障子に映つて、本堂の正面の方から射しこんだので、柱と柱との影は長く畳の上へ引いた。倦《う》み、困《くるし》み、疲れた冬の一日《ひとひ》は次第に暮れて行くのである。其時|白衣《びやくえ》を着けた二人の僧が入つて来た。一人は住職、一人は寺内の若僧であつた。灯《あかし》は奥深く点《つ》いて、あそこにも、こゝにも、と見て居るうちに、六挺ばかりの蝋燭《らふそく》が順序よく並んで燃《とぼ》る。仏壇を斜に、内陣の角のところに座を占めて、金泥《きんでい》の柱の側に掌《て》を合はせたは、住職。一段低い外陣に引下つて、反対の側にかしこまつたは、若僧。やがて鉦《かね》の音が荘厳《おごそか》に響き渡る。合唱の声は起つた。
『なむからかんのう、とらやあ、やあ――』
 宵《よひ》の勤行《おつとめ》が始つたのである。
 あゝ、寂しい夕暮もあればあるもの。丑松は北の間の柱に倚凭《よりかゝ》り乍ら、目を瞑《つぶ》り、頭をつけて、深く/\思ひ沈んで居た。『若《も》し自分の素性がお志保の耳に入つたら――』其を考へると、つく/″\穢多の生命《いのち》の味気なさを感ずる。漠然とした
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