死滅の思想は、人懐しさの情に混つて、烈しく胸中を往来し始めた。熾盛《さかん》な青春の時代《ときよ》に逢ひ乍ら、今迄|経験《であ》つたことも無ければ翹望《のぞ》んだことも無い世の苦といふものを覚えるやうに成つたか、と考へると、左様《さう》いふ思想《かんがへ》を起したことすら既にもう切なく可傷《いたま》しく思はれるのであつた。冷《つめた》い空気に交る香の煙のにほひは、斯の夕暮に一層のあはれを添へて、哀《かな》しいとも、堪へがたいとも、名のつけやうが無い。遽然《にはかに》、二人の僧の声が絶えたので、心づいて眺めた時は、丁度|読経《どきやう》を終つて仏の名を称《とな》へるところ。間も無く住職は珠数《ずゝ》を手にして柱の側を離れた。若僧は未《ま》だ同じ場処に留つた。丑松は眺め入つた――高らかに節つけて読む高祖の遺訓の終る迄《まで》も――其文章を押頂いて、軈《やが》て若僧の立上る迄も――終《しまひ》には、蝋燭の灯が一つ/\吹消されて、仏前の燈明ばかり仄《ほの》かに残り照らす迄も。

       (三)

 夕飯の後、蓮華寺では説教の準備《したく》を為るので多忙《いそが》しかつた。昔からの習慣《な
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