歩くことすら堪へ難い。どうかすると階段を下りる拍子に、二人の肩と肩とが触合《すれあ》ふこともある。冷《つめた》い戦慄《みぶるひ》は丑松の身体を通して流れ下るのであつた。
 小使が振鳴らす最終《をはり》の鈴の音は、其時、校内に響き渡つた。そここゝの教室の戸を開けて、後から/\押して出て来る少年の群は、長い廊下に満ち溢《あふ》れた。丑松は校長の側を離れて、急いで斯の少年の群に交つた。
 やがて生徒は雪道の中を帰つて行つた。いづれも学問する児童《こども》らしい顔付の殊勝さ。弁当箱を振廻して行くもあれば、風呂敷包を頭の上に戴《の》せて行くもある。十露盤《そろばん》小脇に擁《かゝ》へ、上草履提げ、口笛を吹くやら、唱歌を歌ふやら。呼ぶ声、叫ぶ声は、犬の鳴声に交つて、午後の空気に響いて騒しく聞える、中には下駄の鼻緒を切らして、素足で飛んで行く女の児もあつた。
 不安と恐怖との念《おもひ》を抱き乍ら、丑松も生徒の後に随いて、学校の門を出た。斯《か》うしてこの無邪気な少年の群を眺めるといふことが、既にもう丑松の身に取つては堪へがたい身の苦痛《くるしみ》を感ずる媒《なかだち》とも成るので有る。
『省吾さん
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