から取出して読んで居るうちに、いつの間にか彼の高柳との間答――『懇意でも有ません、関係は有ません、何にも私は知りません』と三度迄も心を偽つて、師とも頼み恩人とも思ふ彼の蓮太郎と自分とは、全く、赤の他人のやうに言消して了つたことを思出した。『先生、許して下さい。』斯《か》う詑《わ》びるやうに言つて、軈《やが》て復《ま》た新聞を取上げた。
 漠然《ばくぜん》とした恐怖《おそれ》の情は絶えず丑松の心を刺激して、先輩に就いての記事を読み乍らも、唯もう自分の一生のことばかり考へつゞけたのであつた。其から其へと辿つて反省すると、丑松は今、容易ならぬ位置に立つて居るといふことを感ずる。さしかゝつた斯の大きな問題を何とか為なければ――左様《さう》だ、何とか斯《こ》の思想《かんがへ》を纏めなければ、一切の他の事は手にも着かないやうに思はれた。
『さて――奈何《どう》する。』
 斯う自分で自分に尋ねた時は、丑松はもう茫然《ばうぜん》として了《しま》つて、其答を考へることが出来なかつた。
『瀬川君、何を君は御読みですか。』
 と唐突《だしぬけ》に背後《うしろ》から声を掛けた人がある。思はず丑松は顔色を変へた
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