出来やしません。』
『あゝ。』と校長は嘆息して了つた。『それにしても、よく知れずに居たものさ、どうも瀬川君の様子がをかしい/\と思つたよ――唯、訳も無しに、彼様《あゝ》考へ込む筈《はず》が無いからねえ。』
急に大鈴の音が響き渡つた。二人は壁を離れて、長い廊下を歩き出した。午後の課業が始まると見え、男女の生徒は上草履鳴らして、廊下の向ふのところを急いで通る。丑松も少年の群に交り乍ら、一寸|是方《こちら》を振向いて見て行つた。
『勝野君。』と校長は丑松の姿を見送つて、『成程《なるほど》、君の言つた通りだ。他《ひと》の一生の名誉にも関はることだ。まあ、もうすこし瀬川君の秘密を探つて見ることに為《し》ようぢやないか。』
『しかし、校長先生。』と文平は力を入れて言つた。『是話が彼の代議士の候補者から出たといふことだけは決して他《ひと》に言はないで置いて下さい――さもないと、私が非常に迷惑しますから。』
『無論さ。』
(四)
時間表によると、其日の最終《をはり》の課業が唱歌であつた。唱歌の教師は丑松から高等四年の生徒を受取つて、足拍子揃へさして、自分の教室の方へ導いて行つた。
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