た。
 いつの間にか二人は丑松の噂《うはさ》を始めた。
『勝野君。』と校長は声を低くして、『君は今、妙なことを言つたね――何か瀬川君のことに就いて新しい事実を発見したとか言つたね。』
『はあ。』と文平は微笑《ほゝゑ》んで見せる。
『どうも君の話は解りにくゝて困るよ。何時でも遠廻しに匂はせてばかり居るから。』
『だつて、校長先生、人の一生の名誉に関《かゝ》はるやうなことを、左様《さう》迂濶《うくわつ》には喋舌《しやべ》れないぢや有ませんか。』
『ホウ、一生の名誉に?』
『まあ、私の聞いたのが事実だとして、其が斯の町へ知れ渡つたら、恐らく瀬川君は学校に居られなくなるでせうよ。学校に居られないばかりぢや無い、あるひは社会から放逐されて、二度と世に立つことが出来なくなるかも知れません。』
『へえ――学校にも居られなくなる、社会からも放逐される、と言へば君、非常なことだ。それでは宛然《まるで》死刑を宣告されるも同じだ。』
『先《ま》づ左様《さう》言つたやうなものでせうよ。尤も、私が直接《ぢか》に突留めたといふ訳でも無いのですが、種々《いろ/\》なことを綜《あつ》めて考へて見ますと――ふふ。』

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