聞いて下さらないとすれば、私は今、こゝで貴方と刺しちがへて死にます――はゝゝゝゝ、まさか貴方の性命《いのち》を頂くとも申しませんがね、まあ、私は其程の決心で参つたのです。』
(三)
其時、楼梯《はしごだん》を上つて来る人の足音がしたので、急に高柳は口を噤《つぐ》んで了《しま》つた。『瀬川先生、御客様《おきやくさん》でやすよ。』と呼ぶ袈裟治の声を聞きつけて、ついと丑松は座を離れた。唐紙を開けて見ると、もうそこへ友達が微笑み乍ら立つて居たのである。
『おゝ、土屋君か。』
と思はず丑松は溜息を吐いた。
銀之助は一寸高柳に会釈《ゑしやく》して、別に左様《さう》主客の様子を気に留めるでもなく、何か用事でも有るのだらう位に、例の早合点から独り定めに定めて、
『昨夜君は帰つて来たさうだね。』
と慣々《なれ/\》しい調子で話し出した。相変らず快活なは斯の人。それに遠からず今の勤務《つとめ》を廃《や》めて、農科大学の助手として出掛けるといふ、その希望《のぞみ》が胸の中に溢《あふ》れるかして、血肥りのした顔の面は一層活々と輝いた。妙なもので、短く五分刈にして居る散髪頭が反《かへ》
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