《おとつ》さんと昔御懇意であつたとか。』斯《か》う言つて、高柳は熱心に丑松の様子を窺《うかゞ》ふやうにして見て、『いや、其様《そん》なことは、まあ奈何でもいゝと致しまして、家内が貴方を御知り申して居ると言ひましたら、貴方だつても御聞流しには出来ますまいし、私も亦た私で、どうも不安心に思ふことが有るものですから――実は、昨晩は、その事を考へて、一睡も致しませんでした。』
暫時《しばらく》部屋の内には声が無かつた。二人は互ひに捜《さぐ》りを入れるやうな目付して、無言の儘《まゝ》で相対して居たのである。
『噫《あゝ》。』と高柳は投げるやうに嘆息した。『斯様《こん》な御話を申上げに参るといふのは、克《よ》く/\だと思つて頂きたいのです。貴方より外に吾儕《わたしども》夫婦《ふうふ》のことを知つてるものは無し、又、吾儕夫婦より外に貴方のことを知つてるものは有ません――ですから、そこは御互ひ様に――まあ、瀬川さん左様《さう》ぢや有ませんか。』と言つて、すこし調子を変へて、『御承知の通り、選挙も近いてまゐりました。どうしても此際《こゝ》のところでは貴方に助けて頂かなければならない。もし私の言ふことを
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