遊びに来て話して行くといふ。それから斯の寺の方から言へば、住職が帰つたといふことより外に、何も新しい出来事は無かつたらしい。それにしても斯の内部《なか》の様子の何処となく平素《ふだん》と違ふやうに思はれることは。
軈《やが》て袈裟治は二階へ上つて行つて、部屋の洋燈《ランプ》を点《つ》けて来て呉れた。お志保はまだ帰らなかつた。
『奈何《どう》したんだらう、まあ彼の奥様の様子は。』
斯う胸の中で繰返し乍ら、丑松は暗い楼梯《はしごだん》を上つた。
其晩は遅く寝た。過度の疲労に刺激されて、反《かへ》つて能《よ》く寝就かれなかつた。例の癖で、頭を枕につけると、またお志保のことを思出した。尤も何程《いくら》心に描いて見ても、明瞭《あきらか》に其人が浮んだためしは無い。どうかすると、お妻と混同《ごつちや》になつて出て来ることも有る。幾度か丑松は無駄骨折をして、お志保の俤を捜さうとした。瞳を、頬を、髪のかたちを――あゝ、何処を奈何《どう》捜して見ても、何となく其処に其人が居るとは思はれ乍ら、それで奈何しても統一《まとまり》が着かない。時としては彼《あ》のつつましさうに物言ふ声を、時としては彼の口
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