帰省中のいろ/\を語り聞かせて居るうちに、次第に丑松は一種不思議な感想《かんじ》を起すやうに成つた。それは、丑松の積りでは、対手が自分の話を克《よ》く聞いて居て呉れるのだらうと思つて、熱心になつて話して居ると、どうかすると奥様の方では妙な返事をして、飛んでも無いところで『え?』なんて聞き直して、何か斯う話を聞き乍ら別の事でも考へて居るかのやうに――まあ、半分は夢中で応対《うけこたへ》をして居るのだと感づいた。終《しまひ》には、対手が何にも自分の話を聞いて居ないのだといふことを発見《みいだ》した。しばらく丑松は茫然《ぼんやり》として、穴の開くほど奥様の顔を熟視《みまも》つたのである。
 克く見れば、奥様は両方の※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶち》を泣腫《なきは》らして居る。唯さへ気の短い人が余計に感じ易く激し易く成つて居る。言ふに言はれぬ心配なことでも起つたかして、時々深い憂愁《うれひ》の色が其顔に表はれたり隠れたりした。一体、是《これ》は奈何《どう》したのであらう。聞いて見れば留守中、別に是ぞと変つた事も無かつた様子。銀之助は親切に尋ねて呉れたといふし、文平は克《よ》く
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