避けして、愛宕《あたご》町をさして急いで行かうとすると、不図《ふと》途中で一人の少年に出逢《であ》つた。近いて見ると、それは省吾で、何か斯う酒の罎《びん》のやうなものを提げて、寒さうに慄《ふる》へ乍《なが》らやつて来た。
『あれ、瀬川先生。』と省吾は嬉しさうに馳寄《かけよ》つて、『まあ、魂消《たまげ》た――それでも先生の早かつたこと。私はまだ/\容易に帰りなさらないかと思ひやしたよ。』
好く言つて呉れた。斯の無邪気な少年の驚喜した顔付を眺《なが》めると、丑松は最早《もう》あのお志保に逢ふやうな心地《こゝろもち》がしたのである。
『君は――お使かね。』
『はあ。』
と省吾は黒ずんだ色の罎を出して見せる。出して見せ乍ら、笑つた。
果して父の為に酒を買つて帰つて行くところであつた。『此頃《こなひだ》は御手紙を難有う。』斯《か》う丑松は礼を述べて、一寸学校の様子を聞いた。自分が留守の間、毎日誰か代つて教へたと尋ねた。それから敬之進のことを尋ねて見た。
『父さん?』と省吾は寂《さみ》しさうに笑つて、『あの、父さんは家に居りやすよ。』
よく/\言ひ様に窮《こま》つたと見えて、斯う答へたが、
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