》つた。飯山へ着いたのは五時近い頃。其日は舟の都合で、乗客一同|上《かみ》の渡しまで。丑松は人々と一緒に其処から岸へ上つた。見れば雪は河原にも、船橋の上にも在つた。丁度小降のなかを暮れて、仄白《ほのじろ》く雪の町々。そこにも、こゝにも、最早ちら/\灯《あかり》が点く。其時蓮華寺で撞《つ》く鐘の音が黄昏《たそがれ》の空に響き渡る――あゝ、庄馬鹿が撞くのだ。相変らず例の鐘楼に上つて冬の一日《ひとひ》の暮れたことを報せるのであらう。と其を聞けば、言ふに言はれぬ可懐《なつか》しさが湧上つて来る。丑松は久し振りで飯山の地を踏むやうな心地《こゝろもち》がした。
 半月ばかり見ないうちに、家々は最早《もう》冬籠《ふゆごもり》の用意、軒丈ほどの高さに毎年《まいとし》作りつける粗末な葦簾《よしず》の雪がこひが悉皆《すつかり》出来上つて居た。越後路と同じやうな雪国の光景《ありさま》は丑松の眼前《めのまへ》に展《ひら》けたのである。
 新町の通りへ出ると、一筋暗く踏みつけた町中の雪道を用事ありげな男女《をとこをんな》が往つたり来たりして居た。いづれも斯《こ》の夕暮を急ぐ人々ばかり。丑松は右へ避《よ》け、左へ
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