つて一向恐れるところは無い。恐れるとすれば、其は反《かへ》つて先方《さき》のことだ。斯う自分で答へて見た。第一、自分は四五年|以来《このかた》、数へる程しか故郷へ帰らなかつた――卒業した時に一度――それから今度の帰省が足掛三年目――まあ、あの向町なぞは成るべく避《よ》けて通らなかつたし、通つたところで他《ひと》が左様《さう》注意して見る筈も無し、見たところで何処のものだか解らない――大丈夫。斯う用心深く考へても見た。畢竟《つまり》自分が二人の暗い秘密を聞知つたから、それで斯う気が咎《とが》めるのであらう。彼様《あゝ》して私語《さゝや》くのは何でも無いのであらう。避けるやうな素振《そぶり》は唯人目を羞《は》ぢるのであらう。あの目付も。
とはいふものゝ、何となく不安に思ふ其懸念が絶えず心の底にあつた。丑松は高柳夫婦を見ないやうにと勉《つと》めた。
(四)
千曲川の瀬に乗つて下ること五里。尤《もつと》も、其間には、ところ/″\の舟場へも漕ぎ寄せ、洪水のある度に流れるといふ粗造な船橋の下をも潜り抜けなどして、そんなこんなで手間取れた為に、凡《およ》そ三時間は舟旅に費《かゝ
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