こ》の場処を出て行つた。
 其晩はお志保のことを考へ乍ら寝た。一度有つたことは二度有るもの。翌《あく》る晩も其又次の晩も、寝る前には必ず枕の上でお志保を思出すやうになつた。尤も朝になれば、そんなことは忘れ勝ちで、『奈何《どう》して働かう、奈何して生活しよう――自分は是から将来《さき》奈何したら好からう』が日々《にち/\》心を悩ますのである。父の忌服《きぶく》は半ば斯ういふ煩悶のうちに過したので、さていよ/\『奈何する』となつた時は、別に是ぞと言つて新しい途《みち》の開けるでも無かつた。四五日の間、丑松はうんと考へた積りであつた。しかし、後になつて見ると、唯もう茫然《ぼんやり》するやうなことばかり。つまり飯山へ帰つて、今迄通りの生活を続けるより外《ほか》に方法も無かつたのである。あゝ、年は若し、経験は少し、身は貧しく、義務年限には縛られて居る――丑松は暗い前途を思ひやつて、やたらに激昂したり戦慄《ふる》へたりした。


   第拾弐章

       (一)

 二七日《ふたなぬか》が済《す》む、直に丑松は姫子沢を発《た》つことにした。やれ、それ、と叔父夫婦は気を揉《も》んで、暦を繰つて
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