くとも市村君の選挙が済むまで。実はね、家内も彼様《あゝ》言ひますし、一旦は東京へ帰らうかとも思ひましたよ。ナニ、これが普通の選挙の場合なら、黙つて帰りますサ。どうせ僕なぞが居たところで、大した応援も出来ませんからねえ。まあ市村君の身になつて考へて見ると、先生は先生だけの覚悟があつて、候補者として立つのですから、誰を政敵にするのも其味は一つです。はゝゝゝゝ。しかし、市村君が勝つか、あの高柳利三郎が勝つか、といふことは、僕等の側から考へると、一寸普通の場合とは違ふかとも思はれる――』
丑松は黙つて随いて行つた。蓮太郎は何か思出したやうに、後から来る細君の方を振返つて見て、やがて復《ま》た歩き初める。
『だつて、君、考へて見て呉れたまへ。あの高柳の行為《やりかた》を考へて見て呉れたまへ。あゝ、いくら吾儕《われ/\》が無智な卑賤《いや》しいものだからと言つて、蹈付《ふみつ》けられるにも程が有る。どうしても彼様《あん》な男に勝たせたくない。何卒《どうか》して市村君のものに為て遣りたい。高柳の話なぞを聞かなければ格別、聞いて、知つて、黙つて帰るといふことは、新平民として余り意気地《いくぢ》が無さ
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