、丑松は其を聞いて、格別気にも懸けなかつた。彼程《あれほど》淡泊《さつぱり》として、快濶《さばけ》た気象の細君で有ながら、左様《そん》なことを気に為《す》るとは。まあ、あの夢といふ奴は児童《こども》の世界のやうなもので、時と場所の差別も無く、実に途方も無いことを眼前《めのまへ》に浮べて見せる。先輩の死――どうして其様《そん》な馬鹿らしいことが細君の夢に入つたものであらう。しかし其を気にするところが女だ。と斯う感じ易い異性の情緒《こゝろ》を考へて、いつそ可笑《をか》しくも思はれた位。『女といふものは、多く彼様《あゝ》したものだ。』と自分で自分に言つて見た時は、思はず彼の迷信深い蓮華寺の奥様を、それからあのお志保を思出すのであつた。
 橋を渡つて、停車場《ステーション》近くへ出た。細君はすこし後に成つた。丑松は左の手に持ち変へた鞄をまた/\右の手に移して、蓮太郎と別離《わかれ》の言葉を交し乍ら歩いた。
『そんなら先生は――』と丑松は名残惜しさうに聞いて見る。『いつ頃まで信州に居らつしやる御積りなんですか。』
『僕ですか。』と蓮太郎は微笑《ほゝゑ》んで答へた。『左様《さう》ですなあ――すくな
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