りかざ》したかと思ふと、もう其が是畜生の最後。幽《かすか》な呻吟《うめき》を残して置いて、直に息を引取つて了つた――一撃で種牛は倒されたのである。

       (四)

 日の光は斯《こ》の小屋の内へ射入つて、死んで其処に倒れた種牛と、多忙《いそが》しさうに立働く人々の白い上被《うはつぱり》とを照した。屠手の頭は鋭い出刃庖丁を振つて、先づ牛の咽喉《のど》を割《さ》く。尾を牽《ひ》くものは直に尾を捨て、細引を持つものは細引を捨てゝ、いづれも牛の上に登つた。多勢の壮丁《わかもの》が力に任せ、所嫌はず踏付けるので、血潮は割かれた咽喉を通して紅《あか》く板敷の上へ流れた。咽喉から腹、腹から足、と次第に黒い毛皮が剥取《はぎと》られる。膏と血との臭気《にほひ》は斯の屠牛場に満ち溢《あふ》れて来た。
 他の二頭の佐渡牛が小屋の内へ引入れられて、撃《う》ち殺されたのは間も無くであつた。斯の可傷《いたま》しい光景《ありさま》を見るにつけても、丑松の胸に浮ぶは亡くなつた父のことで。丑松は考深い目付を為乍《しなが》ら、父の死を想《おも》ひつゞけて居ると、軈て種牛の毛皮も悉皆《すつかり》剥取られ、角も撃ち
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