父や丑松と一緒になつて、庭に立つて眺めたり話したりした。
『むゝ、彼《あれ》が御話のあつた種牛ですね。』と蓮太郎は小声で言つた。人々は用意に取掛かると見え、いづれも白の上被《うはつぱり》、冷飯草履は脱いで素足に尻端折。笑ふ声、私語《さゝや》く声は、犬の鳴声に交つて、何となく構内は混雑して来たのである。
いよ/\種牛は引出されることになつた。一同の視線は皆な其方へ集つた。今迄沈まりかへつて居た二頭の佐渡牛は、急に騒ぎ初めて、頻と頭を左右に振動かす。一人の屠手は赤い方の鼻面を確乎《しつか》と制《おさ》へて、声を※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]《はげま》して制したり叱つたりした。畜生ながらに本能《むし》が知らせると見え、逃げよう/\と焦り出したのである。黒い佐渡牛は繋がれたまゝ柱を一廻りした。死地に引かれて行く種牛は寧《むし》ろ冷静《おちつ》き澄ましたもので、他の二頭のやうに悪※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《わるあがき》を為《す》るでも無く、悲しい鳴声を泄《も》らすでも無く、僅かに白い鼻息を見せて、悠々《いう/\》と獣医の前へ進んだ。紫色の潤《うる》みを帯びた大き
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