内に押籠《おしこ》められたと同じやうに、一刻々々と近いて行く性命《いのち》の終を翹望《まちのぞ》んで居た。丑松は今、叔父や持主と一緒に、斯《この》繋留場の柵《さく》の前に立つたのである。持主の言草ではないが、『畜生の為たこと』と思へば、別に腹が立つの何のといふ其様《そん》な心地《こゝろもち》には成らないかはりに、可傷《いたま》しい父の最後、牧場の草の上に流れた血潮――堪へがたい追憶《おもひで》の情は丑松の胸に浮んで来たのである。見れば他のは佐渡牛といふ種類で、一頭は黒く、一頭は赤く、人間の食慾を満すより外には最早《もう》生きながらへる価値《ねうち》も無い程に痩《や》せて、其|憔悴《みすぼら》しさ。それに比べると、種牛は体格も大きく、骨組も偉《たくま》しく、黒毛艶々として美しい雑種。持主は柵の横木を隔てゝ、其鼻面を撫でゝ見たり、咽喉《のど》の下を摩《さす》つてやつたりして、
『わりや(汝《なんぢ》は)飛んでもねえことを為て呉れたなあ。何も俺だつて、好んで斯様《こん》な処へ貴様を引張つて来た訳ぢやねえ――是といふのも自業自得《じごふじとく》だ――左様《さう》思つて絶念《あきら》めろよ。』

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