。年の頃五十余のでつぷり肥つた男が人々の指図をして居たが、其老練な、愛嬌《あいけう》のある物の言振で、屠手《としゆ》の頭《かしら》といふことは知れた。屠手として是処に使役《つか》はれて居る壮丁《わかもの》は十人|計《ばか》り、いづれ紛《まが》ひの無い新平民――殊に卑賤《いや》しい手合と見えて、特色のある皮膚の色が明白《あり/\》と目につく。一人々々の赤ら顔には、烙印《やきがね》が押当てゝあると言つてもよい。中には下層の新平民に克《よ》くある愚鈍な目付を為乍《しなが》ら是方《こちら》を振返るもあり、中には畏縮《いぢけ》た、兢々《おづ/\》とした様子して盗むやうに客を眺めるもある。目鋭《めざと》い叔父は直に其《それ》と看《み》て取つて、一寸右の肘《ひぢ》で丑松を小衝《こづ》いて見た。奈何して丑松も平気で居られよう。叔父の肘が触《さは》るか触らないに、其暗号は電気《エレキ》のやうに通じた。幸ひ案じた程でも無いらしいので、漸《やつ》と安心して、それから二人は他の談話《はなし》の仲間に入つた。
繋留場には、種牛の外に、二頭の牡牛も繋《つな》いであつて、丁度死刑を宣告された罪人が牢獄《ひとや》の
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