つて疑はれるやうな事が出来やすまいか。」としきりに其を言ふ。其時俺が、「左様《さう》心配した日には際限《きり》が無え。」と笑つたことサ。はゝゝゝゝ。』と思出したやうに慾の無い声で笑つて、軈て気を変へて、『しかし、能くまあ、お前も是迄に漕付けて来た。最早大丈夫だ。全くお前には其丈の徳が具《そな》はつて居るのだ。なにしろ用心するに越したことはねえぞよ。奈何《どん》な先生だらうが、同じ身分の人だらうが、決して気は許せねえ――そりやあ、もう、他人と親兄弟とは違ふからなあ。あゝ、兄貴の生きてる時分には、牧場から下つて来る、俺や婆さんの顔を見る、直にお前の噂《うはさ》だつた。もう兄貴は居ねえ。是からは俺と婆さんと二人ぎりで、お前の噂をして楽むんだ。考へて見て呉れよ、俺も子は無しサ――お前より外に便りにするものは無えのだから。』
(三)
例の種牛は朝のうちに屠牛場《とぎうば》へ送られた。種牛の持主は早くから詰掛けて、叔父と丑松とを待受けて居た。二人は、空車引いて馳《か》けて行く肉屋の丁稚《でつち》の後に随いて、軈て屠牛場の前迄行くと、門の外に持主、先《ま》づ見るより、克《よ》く来
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