かせられたりしたものだが、今となつて考へて見ると、親兄弟程|難有《ありがた》いものは無えぞよ。仮令《たとひ》世界中の人が見放しても、親兄弟は捨てねえからなあ。兄貴を忘れちやならねえと言ふのは――其処だはサ。』
 暫時《しばらく》二人は無言で歩いた。
『忘れるなよ。』と叔父は復た初めた。『何程《どのくれえ》まあ兄貴もお前の為に心配して居たものだか。ある時、俺に、「丑松も今が一番危え時だ。斯うして山の中で考へたと、世間へ出て見たとは違ふから、そこを俺が思つてやる。なか/\他人の中へ突出されて、内兜《うちかぶと》を見透《みす》かされねえやうに遂行《やりと》げるのは容易ぢやねえ。何卒《どうか》してうまく行《や》つて呉れゝば可《いゝ》が――下手に学問なぞをして、つまらねえ思想《かんがへ》を起さなければ可《いゝ》が――まあ、三十に成つて見ねえ内は、安心が出来ねえ。」と斯ういふから、「なあに、大丈夫――丑松のことなら俺が保証する。」と言つてやつたよ。すると、兄貴は首を振つて、「どうも不可《いかねえ》もので、親の悪いところばかり子に伝はる。丑松も用心深いのは好《いゝ》が、然し又、あんまり用心深過ぎて反
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