ふ程に悲しかつた。何故、言はなかつたらう。丑松は歩き乍ら、自分で自分に尋ねて見る。亡父《おやぢ》の言葉も有るから――叔父も彼様《あゝ》忠告したから――一旦秘密が自分の口から泄《も》れた以上は、それが何時《いつ》誰の耳へ伝はらないとも限らない、先輩が細君へ話す、細君はまた女のことだから到底秘密を守つては呉れまい、斯《か》ういふことに成ると、それこそ最早《もう》回復《とりかへし》が付かない――第一、今の場合、自分は穢多であると考へたく無い、是迄も普通の人間で通つて来た、是《これ》から将来《さき》とても無論普通の人間で通りたい、それが至当な道理であるから――
種々《いろ/\》弁解《いひわけ》を考へて見た。
しかし、斯ういふ弁解は、いづれも後から造《こしら》へて押付けたことで、それだから言へなかつたとは奈何しても思はれない。残念乍ら、丑松は自分で自分を欺いて居るやうに感じて来た。蓮太郎にまで隠して居るといふことは、実は丑松の良心が許さなかつたのである。
あゝ、何を思ひ、何を煩ふ。決して他の人に告白《うちあ》けるのでは無い。唯あの先輩だけに告白けるのだ。日頃自分が慕つて居る、加《しか》も自
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