いふ隣同志の家の子供が、互ひに遊友達と成つたは不思議でも何でも無い。のみならず、二人は丁度同い年であつたのである。
 楽しい追憶《おもひで》の情は、唐人笛の音を聞くと同時に、丑松の胸の中に湧上《わきあが》つて来た。朦朧《おぼろげ》ながら丑松は幼いお妻の俤《おもかげ》を忘れずに居る。はじめて自分の眼に映つた少女《をとめ》の愛らしさを忘れずに居る。あの林檎畠が花ざかりの頃は、其枝の低く垂下つたところを彷徨《さまよ》つて、互ひに無邪気な初恋の私語《さゝやき》を取交したことを忘れずに居る。僅かに九歳《こゝのつ》の昔、まだ夢のやうなお伽話《とぎばなし》の時代――他のことは多く記憶にも残らない程であるが、彼の無垢《むく》な情緒《こゝろもち》ばかりは忘れずに居る。尤《もつと》も、幼い二人の交際《まじはり》は長く続かなかつた。不図《ふと》丑松はお妻の兄と親しくするやうに成つて、それぎり最早《もう》お妻とは遊ばなかつた。
 お妻が斯《こ》の塚窪へ嫁《かたづ》いて来たは、十六の春のこと。夫といふのも丑松が小学校時代の友達で、年齢《とし》は三人同じであつた。田舎《ゐなか》の習慣《ならはし》とは言ひ乍ら、殊《
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