意と見えて、声を揚げて飛んで来る男女《をとこをんな》の少年もあつた――彼処《あすこ》からも、是処《こゝ》からも。あゝ、少年の空想を誘ふやうな飴屋の笛の調子は、どんなに頑是《ぐわんぜ》ないものゝ耳を楽ませるであらう。いや、買ひに集る子供ばかりでは無い、丑松ですら思はず立止つて聞いた。妙な癖で、其笛を聞く度に、丑松は自分の少年時代を思出さずに居られないのである。
 何を隠さう――丑松が今指して行く塚窪の家には、幼馴染《をさななじみ》が嫁《かたづ》いて居る。お妻といふのが其女の名である。お妻の生家《さと》は姫子沢に在つて、林檎畠一つ隔《へだ》てゝ、丑松の家の隣に住んだ。丑松がお妻と遊んだのは、九歳《こゝのつ》に成る頃で、まだ瀬川の一家族が移住して来て間も無い当時のことであつた。もと/\お妻の父といふは、上田の在から養子に来た男、根が苦労人ではあり、他所者《よそもの》でもあり、するところからして、自然《おのづ》と瀬川の家にも後見《うしろみ》と成つて呉れた。それに、丑松を贔顧《ひいき》にして、伊勢詣《いせまうで》に出掛けた帰途《かへりみち》なぞには、必ず何か買つて来て呉れるといふ風であつた。斯う
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