丑松は唯話すばかりが愉快では無かつた。沈黙《だま》つて居る間にも亦た言ふに言はれぬ愉快を感ずるのであつた。まして、蓮太郎は――書いたものゝ上に表れたより、話して見ると又別のおもしろみの有る人で、容貌《かほつき》は厳《やかま》しいやうでも、存外情の篤《あつ》い、優しい、言はゞ極く平民的な気象を持つて居る。左様《さう》いふ風だから、後進の丑松に対しても城郭《へだて》を構へない。放肆《ほしいまゝ》に笑つたり、嘆息したりして、日あたりの好い草土手のところへ足を投出し乍ら、自分の病気の話なぞを為た。一度車に乗せられて、病院へ運ばれた時は、堪へがたい虚咳《からぜき》の後で、刻むやうにして喀血《かくけつ》したことを話した。今は胸も痛まず、其程の病苦も感ぜず、身体の上のことは忘れる位に元気づいて居る――しかし彼様《あゝ》いふ喀血が幾回もあれば、其時こそ最早《もう》駄目だといふことを話した。
斯ういふ風に親しく言葉を交へて居る間にも、とは言へ、全く丑松は自分を忘れることが出来なかつた。『何時《いつ》例のことを切出さう。』その煩悶《はんもん》が胸の中を往つたり来たりして、一時《いつとき》も心を静息《やす
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