しよ》つて出掛ける。ところが昨日に限つては持たなかつた。時刻に成つても帰らない。手伝ひの男も不思議に思ひ乍ら、塩を与へる為に牛小屋のあるところへ上つて行くと、牝牛の群が喜ばしさうに集まつて来る。丁度其中には、例の種牛も恍《とぼ》け顔《がほ》に交つて居た。見れば角は紅く血に染つた。驚きもし、呆《あき》れもして、来合せた人々と一緒になつて取押へたが、其時はもう疲れて居た故《せゐ》か、別に抵抗《てむかひ》も為なかつた。さて男は其処此処《そここゝ》と父を探して歩いた。漸《やうや》く岡の蔭の熊笹の中に呻吟《うめ》き倒れて居るところを尋ね当てゝ、肩に掛けて番小屋迄連れ帰つて見ると、手当も何も届かない程の深傷《ふかで》。叔父が聞いて駈付けた時は、まだ父は確乎《しつかり》して居た。最後に気息《いき》を引取つたのが昨夜の十時頃。今日は人々も牧場に集つて、番小屋で通夜と極めて、いづれも丑松の帰るのを待受けて居るとのことであつた。
『といふ訳で、』と叔父は丑松の顔を眺めた。『私が阿兄《あにき》に、何か言つて置くことはねえか、と尋ねたら、苦しい中にも気象はしやんとしたもので、「俺も牧夫だから、牛の為に倒れるの
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