らうとは思はれない。そこがそれ人の一生の測りがたさで、不図《ふと》ある種牛を預つた為に、意外な出来事を引起したのであつた。種牛といふのは性質《たち》が悪かつた。尤《もつと》も、多くの牝牛《めうし》の群の中へ、一頭の牡牛《をうし》を放つのであるから、普通の温順《おとな》しい種牛ですら荒くなる。時としては性質が激変する。まして始めから気象の荒い雑種と来たから堪《たま》らない。広濶《ひろ/″\》とした牧場の自由と、誘ふやうな牝牛の鳴声とは、其種牛を狂ふばかりにさせた。終《しまひ》には家養の習慣も忘れ、荒々しい野獣の本性《ほんしやう》に帰つて、行衛《ゆくへ》が知れなくなつて了《しま》つたのである。三日|経《た》つても来ない。四日経つても帰らない。さあ、父は其を心配して、毎日水草の中を捜《さが》して歩いて、ある時は深い沢を分けて日の暮れる迄も尋ねて見たり、ある時は山から山を猟《あさ》つて高い声で呼んで見たりしたが、何処にも影は見えなかつた。昨日の朝、父はまた捜しに出た。いつも遠く行く時には、必ず昼飯《ひる》を用意して、例の『山猫』(鎌《かま》、鉈《なた》、鋸《のこぎり》などの入物)に入れて背負《
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