のは其畠である。流石《さすが》に用心深い父は人目につかない村はづれを択《えら》んだので、根津の西町から八町程離れて、とある小高い丘の裾《すそ》のところに住んだ。
長野県小県郡根津村大字姫子沢――丑松が第二の故郷とは、其五十戸ばかりの小部落を言ふのである。
(四)
父の死去した場処は、斯《こ》の根津村の家ではなくて、西乃入《にしのいり》牧場の番小屋の方であつた。叔父は丑松の帰村を待受けて、一緒に牧場へ出掛ける心算《つもり》であつたので、兎も角も丑松を炉辺《ろばた》に座《す》ゑ、旅の疲労《つかれ》を休めさせ、例の無慾な、心の好ささうな声で、亡くなつた人の物語を始めた。炉の火は盛《さかん》に燃えた。叔母も啜《すゝ》り上げ乍《なが》ら耳を傾けた。聞いて見ると、父の死去は、老の為でもなく、病の為でも無かつた。まあ、言はゞ、職業の為に突然な最後を遂げたのであつた。一体、父が家畜を愛する心は天性に近かつたので、随つて牧夫としての経験も深く、人にも頼まれ、牧場の持主にも信ぜられた位。牛の性質なぞはなか/\克《よ》く暗記して居たもの。よもや彼《あ》の老練な人が其道に手ぬかりなどの有
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