て烈しく動揺する。終《しまひ》には談話《はなし》も能《よ》く聞取れないことがある。油のやうに飯山あたりの岸を浸す千曲川の水も、見れば大な谿流の勢に変つて、白波を揚げて谷底を下るのであつた。濃く青く清々とした山気は窓から流込んで、次第に高原へ近《ちかづ》いたことを感ぜさせる。
軈《やが》て、汽車は上田へ着いた。旅人は多くこの停車場《ステーション》で下りた。蓮太郎も、妻君も、弁護士も。『瀬川君、いづれそれでは根津で御目に懸ります――失敬。』斯《か》う言つて、再会を約して行く先輩の後姿を、丑松は可懐《なつか》しさうに見送つた。
急に室の内は寂しくなつたので、丑松は冷い鉄の柱に靠《もた》れ乍ら、眼を瞑《つむ》つて斯《こ》の意外な邂逅《めぐりあひ》を思ひ浮べて見た。慾を言へば、何となく丑松は物足りなかつた。彼程《あれほど》打解けて呉れて、彼程隔ての無い言葉を掛けられても、まだ丑松は何処かに冷淡《よそ/\》しい他人行儀なところがあると考へて、奈何《どう》して是程の敬慕の情が彼の先輩の心に通じないのであらう、と斯う悲しくも情なくも思つたのである。嫉《ねた》むでは無いが、彼《か》の老紳士の親しくす
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