健康《たつしや》な幸福者《しあはせもの》の多い中に、斯ういふ人々ばかりで取囲《とりま》かれる蓮太郎の嬉《うれ》しさ。殊に丑松の同情《おもひやり》は言葉の節々にも表れて、それがまた蓮太郎の身に取つては、奈何《どんな》にか胸に徹《こた》へるといふ様子であつた。其時細君は籠の中に入れてある柿を取出した。それは汽車の窓から買取つたもので、其色の赤々としてさも甘さうに熟したやつを、択《よ》つて丑松にも薦《すゝ》め、弁護士にも薦めた。蓮太郎も一つ受取つて、秋の果実《このみ》のにほひを嗅《か》いで見乍《みなが》ら、さて種々《さま/″\》な赤倉温泉の物語をした。越後の海岸まで旅したことを話した。蓮太郎は又、東京の市場で売られる果実《くだもの》なぞに比較して、この信濃路の柿の新しいこと、甘いことを賞めちぎつて話した。
駅々で車の停る毎に、農夫の乗客が幾群か入込んだ。今は室の内も放肆《ほしいまゝ》な笑声と無遠慮な雑談とで満さるゝやうに成つた。それに、東海道沿岸などの鉄道とは違ひ、この荒寥《くわうれう》とした信濃路のは、汽車までも旧式で、粗造で、山家風だ。其列車が山へ上るにつれて、窓の玻璃《ガラス》に響い
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