こと。蓮太郎はまた、この友人の応援の為、一つには自分の研究の為、しばらく可懐《なつか》しい信州に踏止まりたいといふ考へで、今宵は上田に一泊、いづれ二三日の内には弁護士と同道して、丑松の故郷といふ根津村へも出掛けて行つて見たいとのことであつた。この『根津村へも』が丑松の心を悦ばせたのである。
『そんなら、瀬川さんは今飯山に御奉職《おいで》ですな。』と弁護士は丑松に尋ねて見た。
『飯山――彼処からは候補者が出ませう? 御存じですか、あの高柳利三郎といふ男を。』
蛇《じや》の道は蛇《へび》だ。弁護士は直に其を言つた。丑松は豊野の停車場《ステーション》で落合つたことから、今この同じ列車に乗込んで居るといふことを話した。何か思当ることが有るかして、弁護士は不思議さうに首を傾《かし》げ乍《なが》ら、『何処へ行くのだらう』を幾度となく繰返した。
『しかし、是だから汽車の旅は面白い。同じ列車の内に乗合せて居ても、それで互ひに知らずに居るのですからなあ。』
斯う言つて弁護士は笑つた。
病のある身ほど、人の情の真《まこと》と偽《いつはり》とを烈しく感ずるものは無い。心にも無いことを言つて慰めて呉れる
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