挨拶した。紳士も、意外な処で、といふ驚喜した顔付。
『おゝ、瀬川君でしたか。』

       (二)

 夢寐《むび》にも忘れなかつた其人の前に、丑松は今偶然にも腰掛けたのである。壮年の発達に驚いたやうな目付をして、可懐《なつか》しさうに是方《こちら》を眺めたは、蓮太郎。敬慕の表情を満面に輝かし乍ら、帰省の由緒《いはれ》を物語るのは、丑松。実に是|邂逅《めぐりあひ》の唐突で、意外で、しかも偽りも飾りも無い心の底の外面《そと》に流露《あらは》れた光景《ありさま》は、男性《をとこ》と男性との間に稀《たま》に見られる美しさであつた。
 蓮太郎の右側に腰掛けて居た、背の高い、すこし顔色の蒼い女は、丁度読みさしの新聞を休《や》めて、丑松の方を眺めた。玻璃越《ガラスご》しに山々の風景を望んで居た一人の肥大な老紳士、是も窓のところに倚凭《よりかゝ》つて、振返つて二人の様子を見比べた。
 新聞で蓮太郎のことを読んで見舞状まで書いた丑松は、この先輩の案外元気のよいのを眼前《めのまへ》に見て、喜びもすれば不思議にも思つた。かねて心配したり想像したりした程に身体《からだ》の衰弱《おとろへ》が目につくでも無
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