濁つて、声も無く流れて遠い海の方へ――其岸に蹲《うづくま》るやうな低い楊柳《やなぎ》の枯々となつた光景《さま》――あゝ、依然として旧《もと》の通りな山河の眺望は、一層丑松の目を傷《いた》ましめた。時々丑松は立留つて、人目の無い路傍《みちばた》の枯草の上に倒れて、声を揚げて慟哭《どうこく》したいとも思つた。あるひは、其を為《し》たら、堪へがたい胸の苦痛《いたみ》が少許《すこし》は減つて軽く成るかとも考へた。奈何《いかん》せん、哭《な》きたくも哭くことの出来ない程、心は重く暗く閉塞《とぢふさが》つて了つたのである。
 漂泊する旅人は幾群か丑松の傍《わき》を通りぬけた。落魄の涙に顔を濡して、餓《う》ゑた犬のやうに歩いて行くものもあつた。何か職業を尋ね顔に、垢染《あかじ》みた着物を身に絡《まと》ひ乍ら、素足の儘《まゝ》で土を踏んで行くものもあつた。あはれげな歌を歌ひ、鈴振鳴らし、長途の艱難を修行の生命《いのち》にして、日に焼けて罪滅《つみほろぼ》し顔な巡礼の親子もあつた。または自堕落な編笠姿《あみがさすがた》、流石《さすが》に世を忍ぶ風情《ふぜい》もしをらしく、放肆《ほしいまゝ》に恋慕の一曲を
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