を飲んだ。新しい木製の珠数《じゆず》、それが奥様からの餞別であつた。やがて丑松は庄馬鹿の手作りにしたといふ草鞋《わらぢ》を穿《は》いて、人々のなさけに見送られて蓮華寺の山門を出た。


   第七章

       (一)

 それは忘れることの出来ないほど寂しい旅であつた。一昨年《をとゝし》の夏帰省した時に比べると、斯《か》うして千曲川《ちくまがは》の岸に添ふて、可懐《なつか》しい故郷の方へ帰つて行く丑松は、まあ自分で自分ながら、殆んど別の人のやうな心地がする。足掛三年、と言へば其程長い月日とも聞えないが、丑松の身に取つては一生の変遷《うつりかはり》の始つた時代で――尤《もつと》も、人の境遇によつては何時変つたといふことも無しに、自然に世を隔てたやうな感想《かんじ》のするものもあらうけれど――其|精神《こゝろ》の内部《なか》の革命が丑松には猛烈に起つて来て、しかも其を殊に深く感ずるのである。今は誰を憚《はゞか》るでも無い身。乾燥《はしや》いだ空気を自由に呼吸して、自分のあやしい運命を悲しんだり、生涯の変転に驚いたりして、無限の感慨に沈み乍《なが》ら歩いて行つた。千曲川の水は黄緑の色に
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